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「三戸のキツネ」
(文珠地区)<全文>

 幼いころ、私は父母から三戸のキツネがよく人を化かした話を聞きました。このキツネは尾を二本もっていたそうです。ある人が、文珠市街での宴会の後、いい機嫌になって家に帰ろうとしました。途中に橋があり、それを渡らねばなりません。

 さて、橋までやって来て、いよいよ渡る段になったのですが、いくら歩いても、向こう側へ渡り切ることができませんでした。はじめは酔っているので、千鳥足になっているからだろうと思っていたのですが、「どうもおかしい」と思うようになりました。

 「それでは」というので、着物を脱ぎ、頭の上にそれを乗せて川の中に入り、向こう岸にたどり着こうとしたのです。けっこう川幅があり、しかも、だんだん深くなって来るので酔いもさめ、真剣な顔つきになりました。が、やはり、渡り切ることができません。

 その様子を、明け方、小便をしようと戸外に出た人が見ていました。輸車路の上を、フンドシひとつになり、頭に着物を乗せた人が、「ああ深い、ああ深い」といって歩いているのです。おかしさをこらえて、声をかけてやりました、すると、夢からさめたような顔をし、「おれもとうとう化かされてしまったか」といって笑い出しました。

 持っていた手土産の折詰はどこかで落としてしまい、結局、一晩中輸車路の上をあるかされていたのでした。